イガゴヨウマツの調査

作成者
アデリア バーバー(研究者)
組織
カリフォルニア大学ホワイト マウンテン研究所
使用したサービス
Google Earth

チャールズ ダーウィンの時代から、生物学者は、この地球上の驚異的な生物の多様性を地図上に表現して、有用な情報と実際のスケール感の両方を伝える方法がないか悩んできました。近年この課題は、地図作成プラットフォームを探す旅へと姿を変えつつあります。求められているのは、一般の人々の学習支援に活用でき、初心者と経験豊富な科学者の両方が簡単にアクセスでき、生物学のデータを追跡して表示できる強力な地図作成プラットフォームです。私たちの研究は、カリフォルニアのホワイトマウンテン地域における古来のイガゴヨウマツの個体群生態学にフォーカスしています。そのなかで、日常的なフィールドワークの効率化と、一般の人々にこのプロジェクトを知ってもらう活動の両方において Google Earth が重要なツールであると気づきました。2004 年以来、私たちのチームでは Google Earth によって空間データを容易に共有し、このデータを衛星画像へすばやく重ね合わせて表示できるようになりました。また、イガゴヨウマツの森における主要な生態学的パターンの発見にも役立っています。

カリフォルニア東部のホワイトマウンテンは、近隣のハイ シエラ地域ほど注目されておらず訪れる人も少ない地域ですが、標高約 4,200 m を超える高い山々が連なる、ハイ シエラに引けを取らない壮大な山地です。この驚くほど険しい地形は数本の未舗装道路が横切るのみで、ヤマヨモギに覆われたゆるやかな起伏の丘には豊富な野草が育ち、谷間にはオオツノヒツジの群れが生息しています。ここは地球最古の樹木であるイガゴヨウマツ(Pinus Longaeva)の自生地であり、また、北米で最も標高の高い場所に位置する研究ステーションであるカリフォルニア大学ホワイト マウンテン研究所の所在地でもあります。

1953 年、生物学者エドマンド シュルマン氏によって、「Methuselah Grove」地区で樹齢 4,500 年を超える樹木が複数発見され、また同地域にはさらに樹齢の古い未発見の樹木が存在する可能性が高いと報告されました。多くの科学者にとって、イガゴヨウマツの最も興味深い特性は、その極端に長い樹齢ではなく、デッドウッド(枯れて倒れた木)の存在です。イガゴヨウマツは乾燥した標高の高い山地でゆっくりと成長するため、その木材は極めて密度が高く樹脂で満たされています。そのため、木が死んでから 1 万年も分解されることなく地上に残ることができます。50 年以上にわたり、アリゾナ大学年輪研究所やその他の研究施設の研究者は、イガゴヨウマツの年輪記録を、過去と現在の気候変動の研究における重要なツールとして利用してきました。2004 年には、イガゴヨウマツの個体群生態学をさらに解明するためのプロジェクトを、カリフォルニア大学サンタクルーズ校生態進化生物学学科を拠点として開始しました。このプロジェクトでは特に、特定のイガゴヨウマツの木立が過去数千年間にどのように成長または縮小してきたか、および、これらの個体群が気候変動にどのように対応していると考えられるかの研究を目的としています。この目的のために、私たちはホワイトマウンテン全域で、古木と若木の両方を含め、数多くのさまざまなイガゴヨウマツの木立を調査するとともに、球果の生成や木質部の発達などの側面も調査しています。

険しい山で科学的な現地調査を実施する際の大きな課題の一つは、関心を持った場所を特定し、そこへの行き方を見つけて、その情報をチームのメンバーに伝えるという作業をどのようにして行うかという点です。Google Earth でホワイトマウンテン地域の画像が更新される前は、広大な地域に点在するイガゴヨウマツの木がはっきりと映っている航空写真の入手は難しく、非常にコストがかかりました。しかし、Google Earth の画像が更新されたことで、個々の木を識別し、主な岩の種類を明確に特定できると同時に、密度の高い木立と密度の低い木立のどちらに木々が存在しているかを容易に判別できるようになりました。

活用方法

Google Earth は、私たちの調査のさまざまな面において欠かせないツールとなっています。当初は、フィールドへ出る前に、木々の範囲を表示し、それぞれの木立の特性を調べるためのツールとして使用しました。Google Earth のポリゴンを利用して、小さいピニョンマツやマウンテン マホガニーの茂みと比べて明らかに大きい、イガゴヨウマツやフレキシマツの木々の群落の周囲に境界を描画しました(サンプル動画を参照)。私たちの知る限りでは、これがホワイトマウンテンのイガゴヨウマツの木立を記した初めての完全な地図です。するとすぐに、「北向きの斜面では木々の密度が高い」、「生育に適した白雲岩と比較して珪岩や花こう岩の上に木立が成長している場所は少ない」など、いくつかの重要かつ全体的なパターンが見えてきました。この事前マッピングは、最も近い道路から徒歩で 1 日以内の距離にある、フィールド上の有望な地点を特定するうえで役立っています。

プロジェクトが大きくなるにつれて、私たちはフィールド調査のシーズンを通して日常的に Google Earth を利用し始めました。基本戦略は、数千ある個別の木々のデータを含む、追跡対象の全地点または経路の「マスター」KML ファイルを 1 つ保持し、すべてのチーム メンバーや他の関係者が研究ステーションでアクセスできるようにすることです。そして先ごろ、個々の木々の特定を容易にするために、各地点を木の写真とリンクさせるという改善が加えられました。これを行うにはまず、木の名前のリスト、GPS 座標、画像名、各木の関連データ(樹齢、球果の数など)を記載したテキスト ファイルを作成します。次に、PHP のスクリプトを使用して、各木の場所を示す目印付きの KML ファイルを生成します。各目印のバブルにはその木の写真と関連データが表示されます。

朝、フィールドに向かう前に、このマスター KML ファイルを使用して調査地点の地図を印刷します。この地図は数人のメンバーが 1 日で行う作業を表しています。同時に、各トランセクトの座標を各チームの GPS 端末にアップロードします。夕方には、次の日の作業計画を立てることができるよう、新たに収集したデータをダウンロードしてこの KML に入力します。

トランセクトのレイアウト

イガゴヨウマツの生態においてひとつ不可解なのは、古来の木やデッドツリー(枯れているが立っている木)の木立に若木がほとんどないという点です。イガゴヨウマツの種子はおよそ 50 年ごとに 1 年の割合でしか発芽して生育せず、生息エリアも限られていると言われています。そのため、私たちのプロジェクトには、さまざまな標高、斜面、生育環境のイガゴヨウマツの森で「トランセクトを踏査」し、調査員が踏査する場所から 20 m 以内の小さな木をすべて計測することが含まれています。この方法で若木をサンプリングすることで、イガゴヨウマツの発芽と生育に必要な条件が明らかになります。

プロジェクトのこの部分では、まず Google Earth を使用して有望なエリアを特定しました。後出の動画は、標高約 3,170~3,260 m で白雲岩と花こう岩の両方がクロスしているトランセクトの例を示しています(他のトランセクトは、標高、斜面、岩質の条件が異なる場所に位置しています)。私たちは Google Earth 上でこの経路をおよそ 1.6 km と計測しました。これは調査チームが 1 日 8 時間の活動でカバーできる距離にほぼ相当します。このエリアの踏査に入る前に、まず安全のために、Google Earth の傾斜機能を使用してこの経路を調べ、大きく傾いた緩い白雲岩のエリアを通っていないことを確認し、また、他のチームのメンバーがこのエリアを特定できるよう、航空写真をさまざまなビューで印刷しました。次に、ファイルを KML 形式で保存し、MacGPS Pro を使用してこの経路を複数の Garmin GPS 端末にエクスポートしました。フィールドでは、GPS 端末上でこの経路をたどりながら、中心線から 20 m 以内にある小さな木を探してそれらをすべて計測できました。日中のデータ収集では、それぞれの木がある地点を記録し、また GPS のトラッキング機能を利用して、踏査した実際のトランセクトを記録しました(Google Earth 上でレイアウトしたものとはやや異なります)。その日の踏査から戻った後、実際に通った経路を Google Earth にアップロードし、PHP スクリプトを使用して目印に写真とデータをリンクしました。その結果、各目印をクリックすると、その木の画像と関連データ(推定樹齢、樹高、根元径、生殖状態など)を表示できるようになりました。これにより、このトランセクトの特定の木を再確認したい場合は、チームメンバーがこの地点をクリックし、木の写真を取得してその場所に戻ることができます。

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孤立木を見つける

他にも、プロジェクトの一環として、密度の高い木立の中にあるイガゴヨウマツとは反対に、他のすべてのイガゴヨウマツから 50 m 以上離れた場所で自生している木々の成長パターンと球果の生成の調査も行っています。私たちはまず、Google Earth を使用して孤立木と思われる木を探し、次に他の木々との間の距離を計測しました。これらの木々はマスター KML ファイルで追跡され、オンライン データベース内のデータや写真にリンクされています。

木立内の個々の木を追跡管理する

プロジェクトのメインは、木立内にある樹齢数百年の生きている木々とデッドツリー(枯れているが立っている木)の樹齢を測定することです。そのためには、小さなエリア内にある数百か所の地点を記録し、各地点に一意の番号と木を特定できる写真を関連付ける必要があります。各エリアの調査を進めるにつれて、地点の数は日々増加していますが、マスター KML ファイル内に地点のリストを保持し、同様に各地点をオンライン データベース上の写真にリンクしています。特定の木のデータや樹齢について疑問が生じた場合は、その地点をクリックして木の画像を取得し、GPS にその地点をアップロードして、元の場所に戻ることができます。

KML の作成

私たちは、他の科学者、教育関係者、一般の人々を対象に、さまざまな種類の情報を収めた KML を作成しました。1 つ目のセクションには [For Travelers] というラベルが付けられ、キャンプ場やビジター センターなどの主なビジター向けサイトの目印が収められています。2 つ目のセクション [Learn About the Bristlecone Pine] は、イガゴヨウマツの生態系を学ぶためのツアーとなっています。このツアーでは、イガゴヨウマツの発見や年輪年代学について学べるほか、イガゴヨウマツの木立ごとの違いについて調べたり、森林限界を調べたりすることができます。これは KML ファイルを使用して特定の種の自然史についてのさまざまな情報を伝える方法の良い例です。3 つ目のセクション [A Week of Field Research] では、私たちのチームによる 1 週間分のフィールドワークの詳細と、日々のフィールド調査における Google Earth の重要性について紹介しています。ここでは、木々を写した数多くの写真へのリンクを含むレイヤ、植物植生のトランセクトのサンプルを示すレイヤ、カリフォルニア州、ネバダ州、ユタ州にわたるイガゴヨウマツの大まかな自生範囲を示すレイヤなどを提供しています。最後のホワイトマウンテン研究ステーションに関するセクションでは、ユーザーが 4 か所のサブステーションについて調べたり、ここを拠点とする他のいくつかのプロジェクトにアクセスしたりできます。

私たちのチームにとってのメリットとして、Google Earth によって日々のフィールドワークのプロセスがはるかに容易になり、膨大な量の空間データをさまざまなユーザーがアクセスできる状態で追跡管理できるようになりました。Google Earth を利用するにあたってのヒントをいくつかご紹介します。

  • 複数の階層で構成されたフォルダを使用してデータを整理する。追跡する地点、経路、ポリゴンが数百か所ある場合は、この方法ですべてのデータを整理できるほか、フォルダを展開しても表示ウィンドウのスクロールバーが長くならずに済みます。

  • 近接する地点をマークする際に、標準の Google Earth アイコンでは大きすぎて表示が重なってしまう場合は、カスタム アイコンをインポートして使用する。

  • Google Earth プロにはポリゴンの描画やシェープファイルのインポートなどの高度な機能が備わっているが、他のバージョンでも、これまでに説明した数多くの作業を行える。

  • KML ファイルをインポート / エクスポートするサードパーティ製のプログラムをチェックする。MacGPS ProKMLer はいずれもシンプルで安価なプログラムで、データ管理に役立っています。この他にも数多くのプログラムがあります。

  • フィールド上の場所を説明する際は、2~3 か所の地点をマークして KML として保存し、同僚にメールでファイルを送ることも可能。

要約すると、コンピュータベースのマッピング プログラムを初めて使用する場合は、これ以上簡単に空間データを管理、共有できる方法は見つからないでしょう。また、従来型の GIS プラットフォームに慣れているユーザーには、データの表示と共有を容易にする手段として Google Earth を試してみることをおすすめします。

トランセクトをドキュメント化するにあたり、研究グループが Google Earth をどのように利用したかをデモンストレーション動画でご確認ください。

成果

Google Earth は私たちの研究において欠かせない存在で、日々利用していました。Google Earth を利用するメリットは、大学の学部生やボランティアを含むあらゆる人々にとって使いやすいという点です。また、KML ファイルを使用することで、チームは Mac と PC 間でも簡単にデータをやり取りできるようになりました。さらに、地図や写真をすばやく印刷したり、増え続ける地点をさまざまな GPS 端末との間で簡単に送受信したりすることも可能です。

KML ファイル「Bristlecone Pine Research」では、一般の人々がホワイト マウンテン地域とこのユニークな木々を探索することができます。